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2014.08.29【STAR+LINE vol.4】大橋実生 「岐阜に女子サッカーを広めたい」

STAR+LINE 大橋実生

 

女子サッカーのトップリーグである「なでしこリーグ」に所属する唯一の岐阜県出身の選手、大橋実生。※1 大垣市出身で、現在は伊賀FCくノ一で活躍する若きディフェンダーです。

入団3年目。なでしこジャパンの猶本光選手(浦和レッズレディース)や田中陽子選手(INAC神戸レオネッサ)らと同級生の21歳、6年後の東京オリンピックでは主力として期待される世代です。経験豊富な選手が多い伊賀FCの中でレギュラーポジションを獲得し、浅野哲也監督もその成長に期待を寄せています。

FC岐阜ベルタでプレーした後、長く県外で経験を積んできた大橋選手の転機は、意外にも地元岐阜でのプレーでした。

※1:2部にあたる「なでしこチャレジリーグ」にも1名所属

 

 ***

 

岐阜という井戸を出て大海へ

 

岐阜県は女子サッカー後進県だ。
県内にある女子サッカーチームは、子どもから、小中高、大学、大人まであわせても14チーム。※2 FC岐阜やなでしこジャパンの活躍でチーム数は増えつつあるが、全国レベルには遠く及ばない。かつての男子がそうであったように、より高いレベルを目指す選手は高校卒業の段階で県外に進むという選択を迫られてきた。
日本女子代表でキャプテンを務めた岐阜市出身の東明有美さんは、高校時代から三重県のプリマハムFCくノー(現 伊賀FC)でプレーした。また昨年引退した元なでしこジャパンのGK天野実咲さんも、宮城県の常盤木学園に進学をし、岐阜を離れている。

※2:JFA 女子サッカー検索サイト「サッカーやろうよ!」登録チーム

 

サッカー一家に育った大橋は、小さい頃から自然にサッカーに親しんできた。小学校3年の時、母の勧めで少年団に入団するが、「本当はバレーボールがしたかった」のだそうだ。だが、本人の気持ちとは裏腹に、運動能力の高かった大橋はすぐに頭角を現す。小学校中学校を通じて地元岐阜では不動の”一番上手い女の子”。常に試合にも出られるし、少しさぼっても何も言われない。そんな“甘い“環境に手応えを感じられずにいた大橋は、高校進学を機にサッカーをやめようと考えていた。

その気持ちを変えたのは、「岐阜の女子サッカーはあまりレベルが高くない。県外に出て、自分がどれくらいできるか試しておいで」という両親の一言。その言葉が負けず嫌いの大橋に火をつけた。

「両親に『試しておいで』と言われて、チャレンジしてみようかなと思った」とサッカーを続けることを決意。「練習に参加した時、雰囲気がよかった」という理由で福井工業大学附属福井高等学校に進学する。

大橋が高校生だった2009年から2011年当時、高校生年代の女子サッカーの主な大会には、「全日本高等学校女子サッカー選手権大会」と「全日本女子ユース (U-18)サッカー選手権大会※3」があった。どちらの大会も、男子のように全ての都道府県代表が出場するのではなく、地域予選を勝ち抜いたチーム(高校選手権は32、全日本ユースは16チーム)が出場権を得る。
岐阜県では2009年にはじめて「第1回岐阜県高校女子サッカー選手権大会」が開催されたが、県代表となった富田高等学校はその後の東海予選で敗退、現在まで岐阜県の単独チーム※4としての出場はない。

※3:2012年、女子サッカーがインターハイ(全国高等学校総合体育大会)の種目が採用されたことを機に、「全日本女子ユース (U-18)サッカー選手権大会」は「全日本女子ユースサッカー選手権大会」に大会名を改め、U-22年代の女子クラブチームナンバーワンを決める大会へと一新された。
※4:全日本女子ユースは、当初都道府県選抜チームによる対抗戦であったが、第9回大会より単独チームによる大会となった。

 

初めて味わった「悔しさ」と「焦り」

 

福井工業大学附属福井高校は、2004年より高校選手権に9年連続で出場し、日本代表選手も輩出した北信越の強豪だ。大橋もさすがに岐阜にいた時のようにはいかず、1年生の頃は試合に出たり出られなかったりの「Aチームの一番下」。初めて「練習をしないと追いていかれる」と危機感を持ち、サッカーに真剣に取り組むようになる。

「初めて悔しいという気持ちになりました。同期で1年生から(試合に)出ている子がいた。そういうところは変に負けず嫌いだから、『1年の中で、なんで私が1番に出られないの?』って。負けたくなくて、必死で練習しました。岐阜では評価されていたのに、結局県外では通用しないと思われることが何より嫌だった」

同じポジションの先輩が怪我をしたこともあり試合に出る機会が増えてきた最中、大橋は前十字靭帯損傷の大怪我を負う。
焦った。

「それまでサッカーをしていて焦ったこともなかったし、サッカーをしたいと思ったこともなかったんですよ。初めての焦り。初めてサッカーがしたいと思った」

通常は6ヶ月以上かかる治療だが、医者の反対を押し切って4ヶ月で復帰する。「やっとレギュラーで試合に出られるようになったのに、ポジションを取られたくないという気持ちが強かった。先生に『大丈夫だから。がんばるから』と泣いて頼みました」

 

「代表で、また一緒にプレーしよう」

 

けがが回復した大橋はスタメンに復帰。全日本ユースには1年生から3度、高校選手権には2回出場した。
両親の”もくろみ”通り、高校3年間で大橋はサッカー選手として大きな成長をとげた。何より大きいのは、サッカーに対する姿勢が変化したことだ。「周りの人の勧めで何となく続けてきた」サッカーを、自ら「やりたい」と思いはじめたのだ。

「自分でも高校3年間でめっちゃ成長したなって思います。中学校のままだったら、たぶん今ごろはサッカーをやめている。尊敬出来る指導者、本気で怒ってくれるよい仲間に巡りあえました」

なでしこブームが続く2012年、大橋は高校を卒業し三重県の伊賀FCくノ一に入団する。同じくなでしこリーグの浦和レッズレディースに進んだ、高校時代の親友でありライバルでもあった高井佑奈(2013年に引退)とは、「お互いがんばって、代表でまた会おう」と再会を誓い合って別れた。

 

伊賀FCくノ一 大橋実生

 

転機となった「ぎふ清流国体」

 

くノ一での1年目、大橋はサテライトチームでプレーをすることになる。社会人1年目、慣れない土地での生活。しかし慣れなければならなかったのは新しい環境だけではなかった。
大橋を最も戸惑わせたのは、チームプレーを大事にする高校サッカーと、個々の選手がトップチームに昇格することを第一優先とするサテライトの考え方の違いだった。家族にも、そして “敵”となった親友、高井にはなおさら相談できず、一人で悩む日々が続いた。

「サテライトの時は毎日のように悩んでいましたね。何回も脱走しようかと思いました(笑)。本当に何回も」と笑いながら振り返るが、当時はどん底まで落ち込んだという。

浮上のきっかけとなったのは、岐阜代表として出場した「ぎふ清流国体」だった。

「岐阜でサッカーをすると楽しいんですよね。岐阜国体は本当に楽しかった。
中学校の頃から岐阜市のチームでプレーしていたので大垣の人に見てもらう機会がなかった。私がサッカーしているところを初めて見たという方も多くいました。お世話になった方たちの前でプレーできてうれしかった」

温かい雰囲気のホーム・大垣で、大橋はのびのびとサッカーを楽しんだ。この大会で岐阜女子選抜は初出場で3位入賞を果たし、観戦に訪れた未来のなでしこたちも歓喜に沸いた。それは岐阜の女子サッカーにとっては歴史的な、大橋にとってはスランプを抜け出すための、大きな一歩となった。

地元でサッカーをできる喜びは大橋に大きな変化をもたらした。将来的に岐阜で女子サッカーを広めたいという思いが芽生え始めてきたのだ。
「自分に何ができるのかは分からないけど、岐阜の方たちにはお世話になりすぎているので、将来何かの形で貢献したいと考えるようになりました」

岐阜国体でリフレッシュし試練の時期を乗り越えた大橋は、翌年トップチームに昇格する。2013年7月12日、「プレナスなでしこリーグカップ」でリーグデビュー、宮間あや率いる岡山湯郷Belleに完封勝利した。先輩の怪我で得たチャンスをつかみ、レギュラーの座を獲得した。

 

伊賀FCくノ一大橋実生

 

なでしこジャパンへ、その先へ

 
東京オリンピックが行われる6年後、大橋は27歳。サッカー選手として円熟期を迎える。周囲は期待するが、大橋自身は「目の前の試合で精一杯で、まだなでしこジャパンは視界に入っていない」とひかえめだ。

日本代表は簡単な道のりではない。しかし、目の前の一試合一試合を全力で戦うことが、やがてより高い舞台へ大橋を導くことを願わずにはいられない。なぜならそれは岐阜に女子サッカーを広める最短の道になるはずだからだ。

高いレベルを目指すユース年代の選手が、ずっと岐阜でサッカーを続けられる環境を。その道のりもまた、今はまだ先が見通せないほど遥か遠くに感じる。岐阜の女子サッカー発展のためにも、今はその道を先頭で走る大橋がより遠くへたどり着けるように、その背中を後押してほしい。

  ***

 

「プレナスなでしこリーグ」はレギュラーシリーズを終え、今週末(8/30)からエキサイティングシリーズに突入する。下位リーグ進出が決まった伊賀FCは、ベガルタ仙台レディース、ASエルフェン埼玉、FC吉備国際大学Charmeとなでしこリーグ残留を争う。

伊賀のホームゲームは、

10月12日(日)ASエルフェン埼玉
10月19日(日)ベガルタ仙台レディース
11月1日(土)FC吉備国際大学Charme

いずれも上野運動公園競技場で13時キックオフ

 

伊賀FCくノ一大橋実生

取材協力:伊賀FCくノ一

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取材・文/STAR+編集部

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