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2014.10.08カヌーフリースタイル  世界一になった長良川ガール

カヌーフリースタイル、この競技をまだ見たことのない人はまずはこの映像を見てほしい。

アメリカが発祥のこの競技は、流れに乗るだけでも困難な激流の瀬で、回転したり潜ったりする比較的新しいスポーツだ。

この競技の世界チャンピオンが岐阜県にいる。郡上出身の末松佳子は、2014年フランスとスペインで行われたワールドカップ女子スクォートボートの部で世界一に輝いた。3戦全勝、圧倒的な強さだった。川の流れに負けない力強い腕力と思い切りの良さ、体のバランスが重要なこの競技、総合優勝は日本人初の快挙だ。

「地元で応援してくれる人が増えてきて、それがとても励みになった」と優勝できた要因を聞かれた末松はそう答えた。

カヌーフリースタイル 末松佳子

 

長良川ガールヒストリー

 

末松は長良川のすぐそばで生まれた。
「生まれが郡上八幡で、小さいころからずっと川で遊んでいました。父の鮎釣りに浮き輪を持ってついて行ったりとか、近所の子供たちと川に行ったりとか」

しかし、カヌーとの出会いは23歳と意外にも遅い。
「長良川でラフティングツアーのガイドの仕事をしていた時に、川を自由自在に動き回る変わったカヌーを見かけました。その楽しそうな姿に惹かれて、すぐに中古のボートを手に入れました」

基本的な動きはガイドの仕事仲間に教わった。最初はひっくり返っても起き上がることすらできず、何十メートルも流されることがしばしばあったそうだ。次第にボートにも慣れ、転覆しても一人で起き上がる「ロール」という技術を覚えてからは楽しいことばかりだったという。出勤前の1時間とか、終わってからの1時間とか短い時間も使ってひたすらカヌーの練習に打ち込んだ。競技人口が少ないカヌーフリースタイルにはコーチがいない。上手くなる方法も全くわからなかった。とにかく川に行ってたくさん漕ぎ、時折練習に来る男子の上手い選手の演技を見ては技を覚えた。

競技を始めて4年目の2009年、初めて出場した日本カヌーフリースタイル選手権大会で3位に入り日本代表権を獲得、初めて世界への切符を手にした。

「初めて世界戦に出た時は、とにかく出られたことが嬉しかった。会場はお祭りみたいに人がたくさんいて、ノリノリの音楽がかかっていて、そこに行くだけで楽しかったですね」

しかし、結果は予選落ち。その後も日本とは全く違う環境に緊張してしまい、海外の試合ではなかなか自分の実力を発揮することができなかった。

カヌーフリースタイル 末松佳子

 

厳しい環境で培われた集中力

 

世界で勝つために、末松は時間を惜しんで練習に没頭した。
老人介護施設で働く末松は、夜勤もあり勤務時間も長い。メインの練習場所となる長良川は近く、車にボートを積めばほんの数分で練習を始められる恵まれた環境とはいえ、練習時間は限られ、その時間の中で集中して練習をしなければならない。

また同じ流れの瀬だけで練習しても、試合には繋がらない。当たり前だが、試合会場は1つとして同じ流れの川はないからだ。
「春は雪解けの最上川に月に5回通ったことがあります。本当に冷たくて顔が痛くなるくらい。夏は九州の佐世保に波の潮位差ですごく大きな波が立つポイントがあるのでそこに行きました。競技になるといろんな流れや場所で行うのでそれに対応できるように遠征をとてもたくさんしました」
様々な川の流れを体験するために、東北や四国、九州などへも積極的に出掛けて行った。末松はこうした場所へ自ら車を運転して出掛けている。時には夜勤明け徹夜の状況で向かうことも少なくない。

日本代表として出場する海外への遠征でも、ホテルの手配やカヌーの輸送などは全てを自分で手配をしなければならない。メジャー競技では考えられないような厳しい競技環境だが、その中で勝ち抜くには、どんな試合、どんな練習でも自分の血や肉にする覚悟が必要だ。末松は上手な海外の選手の演技を目に焼き付け、集中したトレーニングでその技を自分のものにする作業を繰り返した。
カヌーフリースタイル 末松佳子

 

代名詞「ミステリームーブ」

 

スクォートボートは長さ2メートル程の薄いボートで行う競技。水中に潜る技や横に回転するトリックで点数を競う。
「私ができる技はみんなも出来る。差をつけるとしたら潜ること。『ミステリームーブ』って言いますけど、それには自信があった」

「ミステリームーブ」は、川の流れを利用して水中に潜り込む技だ。ボートごと頭の先まで潜れば得点が2倍に、胸まで潜れば1.6倍になるが、失敗すれば得点をもらえない可能性もある。スクォートボートは水の抵抗を受けやすいため、この技はある意味博打にも似たチャレンジだが、末松はこの技にかけた。ホーム・長良川は川の流れは比較的緩やかで下に引き込む力が弱いため、ミステリームーブはやりにくい環境だ。しかし末松は「あえて難しい場所で練習することで試合ではどんな川の流れでも対応出来るようになる」と逆手に取った。

長良川で磨いた集中力、そして得意技の「ミステリーループ」。
練習の成果が出始めたのは去年2013年の世界選手権。スクォートボートの部で3位に入賞した。そして今年、ついにワールドカップ優勝を勝ち取った。

フリースタイル 末松佳子

 

長良川ガールのこれから

 

「今回メダルは取れましたけど自分の理想の演技には3割くらいしか近づいていないので、もっとフリースタイルを追求したいですね」
例えるならバレリーナの様な優雅で滑らかな演技をしたいという末松。今後の目標を聞くと、来年カナダで行われる世界選手権で再びチャンピオンになることはもちろん、日本ではあまり知られていないカヌーフリースタイルという競技を広めていきたいと言う。

「今ヨーロッパとかはどんどんジュニアの育成に力を入れている。私が今まで経験したことを活かせるように、ジュニアの育成とか競技人口を増やせるような活動もしていきたいと思っています」

ロンドンオリンピックでは公開競技として行われたカヌーフリースタイルは次の五輪で正式種目になる可能性もある。欧米では白波の様子から「白いロデオ」と呼ばれ人気が急上昇している。日本人初の世界チャンピオンとして、これから競技人口を増やすことや競技の認知度を上げていくことが末松の新たな課題だ。

末松は世界チャンピオンとなった今も毎日のように川に出ている。「川に出ないと落ち着かないというか、不安になるんですよね」

長良川が育てた世界一のカヌー選手。その目指す先には自分の理想の演技と川で楽しむ多くの子供たちの姿がある。

  • チェック

末松 佳子

岐阜県郡上市出身。
2009年より日本代表としてICF催の世界選手権、ワールドカップに参戦。
2014年、ICFカヌーフリースタイル世界選手権大会 スクウォートボート優勝。

https://www.facebook.com/yoshiko.suematsu/

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