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2014.09.03【STAR+LINE vol.4】大橋実生 「岐阜に女子サッカーを広めたい」

伊賀FCくノ一大橋実生

 

女子サッカーのトップリーグである「なでしこリーグ」に所属する唯一の岐阜県出身の選手、大橋実生。※1 大垣市出身で、現在は伊賀FCくノ一で活躍する若きディフェンダーです。

入団3年目。なでしこジャパンの猶本光選手(浦和レッズレディース)や田中陽子選手(INAC神戸レオネッサ)らと同じ21歳、6年後の東京オリンピックでは主力として期待される世代です。経験豊富な選手が多い伊賀FCの中でレギュラーポジションを獲得し、浅野哲也監督もその成長に期待を寄せています。

FC岐阜ベルタでプレーした後、県外で経験を積んできた大橋選手のターニングポイントには、いつも地元岐阜への思いと仲間とまた一緒にサッカーがしたいという気持ちがありました。

※1:2部にあたる「なでしこチャレジリーグ」にも1名所属

 

 ***

 

女子サッカー後進県・岐阜という井戸を出て大海へ

 

岐阜県は女子サッカー後進県だ。
県内にある女子サッカーチームは、子どもから、小中高、大学、大人まであわせても14チーム。※2 FC岐阜やなでしこジャパンの活躍でチーム数は増えつつあるが、全国レベルには遠く及ばない。かつては男子選手もそうであったように、より高いレベルを目指す選手は高校卒業の段階で県外に進むという選択を迫られてきた。
日本女子代表のキャプテンを務めた、岐阜市出身の東明有美さんは、高校時代から三重県のプリマハムFC くノー(現 伊賀FC)でプレーした。昨年引退した元なでしこジャパンのGK天野実咲さんも、宮城県の常盤木学園に進学をし、岐阜を離れている。

※2:JFA 女子サッカー検索サイト「サッカーやろうよ!」登録チーム

 

サッカー一家に育った大橋は、小さい頃から自然にサッカーに親しんできた。小学校3年の時、母の勧めで少年団に入団するが、「本当はバレーボールがしたかった」のだそうだ。だが、本人の気持ちとは裏腹に、運動能力の高かった大橋はすぐに頭角を現す。小学校中学校を通じて地元岐阜では不動の”一番上手い女の子”。常に試合にも出られるし、少しさぼっても何も言われない。そんな“甘い“環境に手応えを感じられずにいた大橋は、高校進学を機にサッカーをやめようと考えていた。

その気持ちを変えたのは、「岐阜の女子サッカーはあまりレベルが高くない。県外に出て、自分がどれくらいできるか試しておいで」という両親の一言。その言葉が負けず嫌いの大橋に火をつけた。

「両親に『試しておいで』と言われて、チャレンジしてみようかなと思った」とサッカーを続けることを決意。「練習に参加した時、雰囲気がよかった」という理由で福井工業大学附属福井高等学校に進学する。

大橋が高校生だった2009年から2011年当時、高校生年代の女子サッカーの主な大会には、「全日本高等学校女子サッカー選手権大会」と「全日本女子ユース (U-18)サッカー選手権大会※3」があった。どちらの大会も、男子のように全ての都道府県代表が出場するのではなく、地域予選を勝ち抜いたチーム(高校選手権は32、全日本ユースは16チーム)が出場権を得るが、現在まで岐阜県の単独チーム※4としての出場はない。

※3:2012年、女子サッカーがインターハイ(全国高等学校総合体育大会)の種目が採用されたことを機に、「全日本女子ユース (U-18)サッカー選手権大会」は「全日本女子ユースサッカー選手権大会」に大会名を改め、U-22年代の女子クラブチームナンバーワンを決める大会へと一新された。
※4:全日本女子ユースは、当初都道府県選抜チームによる対抗戦であったが、第9回大会より単独チームによる大会となった。

 

初めて味わった「悔しさ」と「焦り」

 

福井工業大学附属福井高校は、2004年より高校選手権に9年連続で出場し、日本代表選手も輩出した北信越の強豪チームだ。大橋もさすがに岐阜の頃のようにはいかず、1年生の頃は試合に出たり出られなかったりの「Aチームの一番下」。初めて「練習をしないと追いていかれる」と感じ、サッカーに真剣に取り組むようになる。

「初めて悔しいという気持ちになりました。同期で1年生から(試合に)出ている子がいた。そういうところは変に負けず嫌いだから、『1年の中で、なんで私が1番に出られないの?』って。負けたくなくて、必死で練習しました。岐阜では評価されていたのに、結局県外では通用しないと思われることが何より嫌だった」

同じポジションの先輩が怪我をしたこともあり試合に出る機会が増えてきた最中、大橋は前十字靭帯損傷の大怪我を負う。
焦った。

「それまでサッカーをしていて焦ったこともなかったし、サッカーをしたいと思ったこともなかったんですよ。初めての焦り。初めてサッカーがしたいと思った」

通常は6ヶ月以上かかる治療だが、医者の反対を押し切って4ヶ月で復帰する。「やっとレギュラーで試合に出られるようになったのに、ポジションを取られたくないという気持ちが強かった。先生に『大丈夫だから。がんばるから』と泣いて頼みました」

 

「なでしこジャパンで、また一緒にプレーしよう」

 

けがから復帰した大橋はスタメンに復帰。全日本ユースには1年生から3度、高校選手権には2回出場した。
両親の”もくろみ”通り、高校3年間で大橋はサッカー選手として大きな成長をとげた。何より大きいのは、サッカーに対する姿勢が変化したことだ。「周りの人の勧めで何となく」続けてきたサッカーを、自ら「やりたい」と思いはじめたのだ。

「自分でも高校3年間でめっちゃ成長したなって思います。中学校のままだったら、たぶん今ごろサッカーをやめている。尊敬出来る指導者、本気で怒ってくれるよい仲間に巡りあえました」

なでしこブームが続く2012年、大橋は高校を卒業し三重県の伊賀FCくノ一に入団する。同じくなでしこリーグの浦和レッズレディースに進んだ、高校時代の親友でありライバルでもあった高井佑奈(2013年に引退)とは、「お互いがんばって、代表でまた会おう」と再会を誓い合って別れた。

 

伊賀FCくノ一大橋実生

“脱走”をとどまらせた「正反対のライバル」

 

くノ一での1年目、大橋はサテライトチームでプレーをすることになる。社会人1年目、慣れない土地での生活。しかし慣れなければならないのは新しい環境だけではなかった。
大橋を最も戸惑わせたのは、チームプレーを大事にする高校サッカーと、個々の選手がトップチームに昇格することを第一優先とするサテライトの考え方の違いだった。家族にも、そして “敵”となった高井にはなおさら相談出来ず、一人で悩む日々が続いた。

「サテライトの時は毎日のように悩んでいましたね。何回も脱走しようかと思いました(笑)。本当に何回も、思いました」と笑いながら振り返る。

何度も考えた“脱走”をとどまらせたのは、仲間の存在だった。作元芙美佳(さくもと ふみか)、高校生の時に伊賀のトップチームでプレーした経験があり、猶本や田中美南らとともにU-16日本代表にも招集された経験をもつ選手だ。くノ一の下部組織出身で、サッカーが大好きな作元。正反対の二人は、当初は考え方の相違からよく対立していたという。

「何度も何度も話をしていくうちに、お互いに認められるようになった。こういう考え方もあるんだなって。
芙美佳は本当にサッカーが大好きで、熱い。サッカーの話を始めたら止まりません。そういうところをとても尊敬しています。私とは正反対だけど、すごく良い関係だと思っています」

 

入団2年目、大橋と作元はそろってトップチームに昇格した。先に試合に出たのは作元だった。
「芙美佳が先に試合に出たんですよ。それで芙美佳とまたトップでも一緒にサッカーしたいと思って、がんばろうって思いました」

作元に遅れること2ヶ月。2013年7月12日、大橋は「プレナスなでしこリーグカップ」でなでしこリーグデビューを果たす。宮間あや率いる岡山湯郷Belleに完封勝利。先輩の怪我で得たチャンスをつかみ、レギュラーの座を獲得した。

 

伊賀FCくノ一大橋実生

「岐阜に女子サッカーを広めたい」

 

サテライト時代、ぎふ清流国体に岐阜県代表として出場したことも大橋を支えた。

「岐阜でサッカーをすると楽しいんですよね。岐阜国体は本当に楽しかった。お世話になった方たちの前でプレーできたことがうれしかった。中学校の頃から岐阜市のチームでプレーしていて大垣の人にサッカーを見てもらう機会がなかったので、私がプレーしているところを初めて見たという方も多くいました」

岐阜でプレーしたことで、将来的に岐阜で女子サッカーを広めたいという思いが芽生え始めてきたという。
「自分に何ができるのかは分からないけど、岐阜の方たちにはお世話になりすぎているので、将来何かの形で貢献したいと考えるようになりました」

 

東京オリンピックが行われる6年後27歳になる大橋は、ちょうどサッカー選手としての円熟期を迎える。周囲は期待を口にするが、大橋自身は「目の前の試合で精一杯で、まだなでしこジャパンは視界に入っていない」とひかえめだ。日本代表は簡単な道のりではないが、目の前の試合を全力で戦うことが、より高い舞台につながることを期待している。それは岐阜に女子サッカーを広める最短の道になるはずだ。

 

なでしこリーグはレギュラーシリーズを終え、今週末(8/30)からエキサイティングシリーズに突入する。下位リーグ進出が決まった伊賀FCは、ベガルタ仙台レディース、ASエルフェン埼玉、FC吉備国際大学Charmeとなでしこリーグ残留をかけ争う。

伊賀のホームゲームは、

10月12日(日)ASエルフェン埼玉
10月19日(日)ベガルタ仙台レディース
11月1日(土)FC吉備国際大学Charme
(いずれも上の陸上競技場で13時キックオフ)

岐阜の女子サッカー界を担うであろう若きディフェンダーを、ぜひスタジアムで後押ししてほしい。

 

伊賀FCくノ一大橋実生

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取材・文/STAR+編集部

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